2020年1月から再放送が始まった『新世紀エヴァンゲリオン』TVアニメシリーズの冒頭シーン。企画・原作のクレジットが【GAINAX】から【庵野秀明】に変わっていたことがツイッターなどで話題になっております。
実際に変更になったのは2016年の再放送からなのですが、2019年12月に起きたアニメ制作会社「ガイナックス」の巻智博社長(当時)逮捕のニュースから、それに対するマスコミ報道に抗議する庵野秀明氏の特別寄稿が話題となったのでその影響かと思います。
ここでは個人的な備忘録も兼ねて、エヴァの権利関係の表記がどのように変わっていったのかを簡単に記事にしております。なお、現在再放送されているTVシリーズの謎のモザイクについても少し記載しております。
「エヴァ制作会社の社長逮捕」というミスリード
まず、話題の発端となった2019年の事件について。
2019年12月に準強制わいせつ容疑でアニメ制作会社「ガイナックス」の巻智博社長(当時)が逮捕されました。この事件はニュースサイトで【エヴァ制作会社社長、逮捕】などと報道されたため、現在エヴァンゲリオンシリーズの制作や権利を持つ株式会社カラー(以下、カラー)や、その代表でありエヴァンゲリオンシリーズ総監督でもある庵野秀明氏に非難の矛先が向かいます。これにより、すでに決まっていたエヴァンゲリオン関連の企画で撤回されてしまったものもあるなど、実害が発生しているとのことです。
自分も【エヴァ制作会社社長、逮捕】の一報を見たときは、とても驚きました。エヴァンゲリオンの制作といえば現在はカラーですし社長は庵野秀明氏ですから、まさか逮捕されたのかと思ってしまいました。実際に逮捕されたのはもちろん別人で、そもそもカラーとは何の関係もないことは記事を読めばわかります。が、これは庵野秀明氏からすればたまったものではないでしょう。マスコミがアクセス数稼ぎのまとめサイトじみた事を行ったことに、いちファンとして怒りを覚えます。
『エヴァンゲリオン』のTVシリーズや旧劇場版の制作は確かに当時のガイナックスが行っておりましたが、現在のガイナックスはエヴァの制作にはまったく関係ありません。法律的な権利もカラーに移っておりますし、今回逮捕されたのもエヴァ制作に関わったこともない人物ということですので、これをエヴァと結び付けて報道して、さらに実害まで出すのは注目を集めるにしてもやり過ぎでしょう。
この事件の発生後、庵野秀明氏自身がガイナックス設立からエヴァの制作、さらにカラーの立ち上げから現在に至るまでの経緯を権利関係も含めてダイヤモンドオンラインに寄稿しております。ぜひ一読してみてください。
これまでどこにもお話ししてこなかった経緯をきちんと説明しておきたい、との思いから寄稿させていただきました。ご一読いただければ幸いです。
【庵野秀明・特別寄稿】『エヴァ』の名を悪用したガイナックスと報道に強く憤る理由 | ダイヤモンド・オンライン https://t.co/Pa6hOyoPUy
— 株式会社カラー (@khara_inc) December 29, 2019
マスコミは『エヴァンゲリオン』について、ガイナックスに権利が無いことを知らなかったのかと言えば、もちろんそんなことはありません。今回の事件が出るまで世間では『エヴァンゲリオン』はガイナックスのイメージが強かったようですが、少なくともマスコミは調べればすぐわかるでしょうし、実際、過去にはこの件(カラーに『エヴァ』の権利が移っていること)がニュースとして取り上げられたことが何度かあります。
2017年4月に当時の復興大臣だった今村雅弘衆議員議員が、その失言から注目された際に着用していたネクタイがエヴァ柄だったことで話題になりました(実際にはそれ以前の、同年2月時点で予算委員会や会見でも着用していたのでそれを取材したマスコミもあった)。今村議員は「福島ガイナックス」を同年1月28日訪れた際に同社からプレゼントされたと語っておりましたが、失言以降、「福島ガイナックス」がエヴァンゲリオンと全くの無関係であることをいくつかのマスコミがこの時点で伝えております。
もちろん、株式会社カラーも当時しっかりと否定しております。
復興相がエヴァ柄のネクタイを着用されていた件について、作品が福島復興のお役に立つのであれば嬉しい事なのですが、福島の企業と「エヴァンゲリオン」は無関係ですし、弊社としてはあずかり知らぬ事で当惑しております。本件に関する弊社への取材・お問い合わせはご遠慮下さいますようお願い致します
— 株式会社カラー (@khara_inc) April 7, 2017
ここでは「ガイナックス」ではなく、「福島ガイナックス」との関係を否定しておりますが、いずれにせよ『エヴァンゲリオン』の権利がカラーになっている事はマスコミの記事で触れられております。この時はカラーとガイナックスが無関係であると報じていながら、今回のようなセンセーショナルな事件が起きると受け手のミスリード狙いで【エヴァ制作会社社長、逮捕】と報じており、明らかに話題性重視の無責任な報道だと思います。マスコミの姿勢には疑問を抱かざるを得ません。
庵野監督が“『エヴァ』の名を悪用している”とまで強く抗議している意味を、ぜひともマスコミの方には汲み取ってもらいたいです。
余談ですが、上の庵野秀明監督の記事で以下のように語っている部分があります。
『エヴァ』と全く関係のない、ガイナックスという名を冠した別会社ということでした。しかし、福島ガイナックスはことあるごとに、周囲の人には『エヴァ』と関係があるかのようにみえる振る舞いをしていました。
引用:ダイヤモンドオンライン「【庵野監督・特別寄稿】『エヴァ』の名を悪用したガイナックスと報道に強く憤る理由」より
この福島ガイナックスがエヴァに関係しているような振る舞いの一つが、今村議員へのネクタイのプレゼントだったんじゃないかなと思います(プレゼントの具体的な経緯と意図が不明なので想像でしかないですが)。
書籍の原作表記の変遷
今回の話題を見て、コミックスやアニメで原作表記がどのように変わったのか、興味があったので調べてみました。
エヴァンゲリオンシリーズの著作権者表記は、TVアニメシリーズでは【GAINAX/Project Eva.・テレビ東京】、旧劇場版シリーズでは【GAINAX/EVA制作委員会】となっております。その後、庵野秀明氏が2006年にカラーを設立して以降の2007年ごろからは【GAINAX・カラー】などと併記されておりました。そして、2014年10月ごろから関連商品(マンガなど)でこの併記がなくなり【カラー】単独表記となります。
以下はエヴァンゲリオン関連コミックスなどの書籍の変遷です。
もっとも古いであろう1995年9月発行の貞本義行先生の『新世紀エヴァンゲリオン』第1巻(初版)の表記では、原作【GAINAX】となっております。
2006年までは上記の表記となっており、2007年に発売された11巻では【GAINAX・カラー】の併記となり、以降この表記が続きます。
そして2014年ですが、6月に発行された『碇シンジ育成計画』16巻では、それまで通り【GAINAX・カラー】となっております。
その後、同年11月に発売された17巻では【カラー】単独表記となっており、他の関連書籍もほぼ同時期から【カラー】単独表記へと変わっております。
ネット上でも2014年11月1日に更新されたヱヴァンゲリヲン新劇場版の公式サイトが「エヴァンゲリオン 公式サイト」へと名称が変更され、権利者表記も【©カラー/Project Eva. ©カラー/EVA製作委員会 ©カラー】となり「ガイナックス」の表記はありません。
ここで特許庁で紹介されている商標権検索システムで『エヴァンゲリオン』を調べてみると、最も古い申請として1995年5月9日のもの(登録3324699)があり、経過記録を見てみると以下のようになっております。
これを見る限り、少なくとも2014年9月12日にはそれまでガイナックスが持っていた商標権がカラーへ譲渡されているようです。他にもたくさんあるのですが、いくつか見たところでは全て同じ日付で譲渡の申請がなされておりました。
この時のガイナックスは、2012年からカラーへのエヴァ関連ロイヤリティ支払いが滞っており、さらに2014年には庵野監督に1億円の追加融資を頼んでいたそうですから資金繰りに相当難儀していたようです。エヴァ関連の権利はもともと段階的にカラーに移譲する予定だったそうですが、この資金繰り悪化によってほかへの権利移譲の可能性もあったことから、予定を前倒ししたのが2014年だったようです。
そして、ここで権利譲渡があったため、同年10月ごろから関連商品の権利表記は順次【カラー】単独表記になっていったようです。
TVアニメ版の原作表記変更
今回話題になったアニメの原作表記ですが、2015年に発売されたTVシリーズのBlu-ray版では過去に発売されたものと同じく、【企画・原作:GAINAX】表記となっております。これは、最初にTV放送された1995年からの表記です。
その後、NHK-BSプレミアムで2016年9月に初の「HDリマスター&5.1chサラウンド」版がテレビ放送された際に、この原作クレジットが【庵野秀明】に変更され、ファンの間でBlu-ray版と表記が変わったと話題になりました。以後、TVで再放送される際には、この表記が続くことになります。
今回、2020年1月から始まった再放送でも当然この表記になっているのですが、このことを知らない人からは記事冒頭の「2019年12月の事件があったためにクレジットを変更した」と思っている方もいるようです。
実際には3年以上前から現在のクレジット表記ですから今回の事件は関係ないのですが、それだけ今回の事件が話題になったということでしょう。
GAINAXの文字が消えた
しかし、今回のアニメ再放送では別なところが気になりました。2020年1月現在、エヴァの再放送はBS日テレやテレビ神奈川・千葉テレビなどで行われているのですが、オープニングの2か所で「GAINAX」の文字が消えております。
こちらはBS日テレで2019年10月から放送スタートしたもの。オープニングにはこれまで通り「佐藤裕紀(GAINAX)」の文字があります。
ところが、2020年1月から放送されているテレビ神奈川版(2020年1月5日放送)のクレジットを見ると、「GAINAX」の文字がありません。
続いて表示される「GAINAX」のクレジットも同様で、BS日テレ版では表記がありますが・・・
やはりテレビ神奈川版では「GAINAX」の文字が消えております。今回が初めてなのかは不明ですが、権利関係が完全に移ったことから表記も正確にするようになったようです。
また、エンディングでは一部のクレジットがモザイク処理されております。
こちらは2019年10月14日放送のBS日テレ版。同じ第1話部分ですが、下部の「CG制作」に「GAINAX SHOP」と入っております。
しかし、今回放送された2020年1月5日放送のテレビ神奈川版では、「GAINAX SHOP」の部分にモザイクがかかっております。
放送時期が3か月しか違っていないのですが、同じ再放送でなぜ片方だけモザイクがかかっているのか不明です。もしかしたら権利表示のタイミングか何かで2020年から放送される分だけ「GAINAX」表記が消えたのかもしれませんが、まったくわからないので憶測しかできません。特に発表されることもないのでしょうから、いずれ関係者の方が語ってくれるのを待ちたいです。
まとめ
繰り返しになりますが、現在のガイナックス、および「~ガイナックス」など複数あるガイナックスを冠するアニメ制作会社は、少なくとも2020年1月時点ではエヴァンゲリオンの制作と関係がありません。
※追記
冒頭で紹介したガイナックス社長の事件ですが、その後ガイナックスはこの不祥事を受けて役員全員の退任と新たな役員を選出。新たな代表取締役に、エヴァンゲリオンの著作権管理会社である株式会社グラウンドワークスの神村氏が就任することが2020年2月18日に発表されました。これによりガイナックスは今後、エヴァに何らかの形でかかわっていくのではないかと思います。
追記ここまで
別に私はカラーの関係者でも何でもない、ただのエヴァファン・庵野ファンの一人ですが、今回の事件の報道があまりにも話題性重視で報道される側の実害を無視したものであったことに怒りを感じたことと、ガイナックスからカラーへの権利移転や表記の変化に興味があったためにこの記事を書きました。
この記事で「エヴァンゲリオン=カラー」の認識が少しでも広まればいいなと思っております。
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参考HP
- 【備忘録】エヴァンゲリオン 原作表記・著作権表示(e2 plus)
- 【続報】エヴァ公式サイト更新はGAINAX→カラーの権利関連か?(みんなのエヴァファン)
- 大臣辞職でさらに注目度アップ!福島ガイナックスと『エヴァ』ネクタイの関係とは?(ビジネスジャーナル)
- 【悲報】今村復興大臣のエヴァネクタイでの釈明会見にキャラデザインした貞本義行さんが嘆きのコメント(ロケットニュース24)