第27回東京国際映画祭の特集企画「庵野秀明の世界」
2014年10月23日より開催されている、第27回東京国際映画祭の特集上映「庵野秀明の世界」に行ってきました。
この企画では、庵野監督が過去に製作したアニメや実写映画から、学生時代に製作した貴重な作品までを集めて上映するというもので、昨年、庵野監督の故郷・山口県宇部市で行われた関連作品上映企画「アンノヒデアキノセカイ」をさらに拡張したような感じになっております。
TOHOシネマズ日本橋において開催されている第27回東京国際映画祭では、庵野秀明監督の作品を網羅した「庵野秀明の世界」が特別企画として開催されております。
ここでは映画祭の期間中、庵野監督が学生時代に制作した作品やアニメ・実写の監督作品などが数多く上映されおり、庵野監督のほとんどすべての作品を観ることが出来ます。
劇場で17年ぶりに観た「旧劇場版エヴァ」
「庵野秀明の世界」では連日庵野監督の作品が上映されていますが、私が行ったのはエヴァンゲリオン関連で唯一、庵野監督のトークショーが行われた『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』でした。
今回のイベントで私が観たエヴァの劇場版は、1997年に公開されたものではなく1998年3月に劇場版エヴァの本来の形ということでリバイバル上映された『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)2/Air/まごころを、君に』(REVIVAL OF EVANGELION)でした。
要するに、97年3月公開の総集編(及び一部新作)と97年7月公開の完結編を一緒にしたもので上映時間はおよそ160分にもなる長編であり、上映時間だけで言えば旧劇場版・新劇場版を含め最長となります。
続けて観るのはかなり疲れますが、『DEATH (TRUE)』終了後にはおよそ4分ほどの休憩時間がありますのでトイレなどに行くのは問題ありませんでした。 ちなみに旧劇場版といえば、今年の8月にまさかの地上波放送がありましたが、
また劇場で観られるということが非常に嬉しかったです。
映画の内容についてはすでに何度も観ているのですが、改めて劇場の大スクリーンで観てみると迫力がまるで違いました。
声優さんの鬼気迫る演技も相まって、公開当時の雰囲気が蘇ってくるようでした。 これを観た後に新劇場版を観ると、ずいぶんマイルドな仕上がりになっていると感じてしまいます(面白いかどうかとは当然別問題ですが)。
正直、庵野監督のトークイベントが目的でしたので映画開演前は160分間をどう過ごそうか、などと考えていたのですが、始まってみると自分でも不思議なくらい画面にのめり込んでいることに気がつきました。 終わってみれば映画館で観れて良かったなーと感じるほど楽しく観られました。
当初「監督業には向いていない」と考えていた
メインイベントとなる庵野監督のトークイベントは、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏との対談形式。トークのテーマは「監督編」ということで、庵野監督が手がけた『トップをねらえ』や『ふしぎの海のナディア』、『エヴァ』や『彼氏彼女の事情』について語られましたが、1時間ほどのトークの中でほとんどが『トップ』と『ナディア』に費やされました。
まずは監督業とはどのようなものかという事から対談がスタート。
これについてまず庵野監督は、監督とは「OKとNGの二つが言えれば誰でもできる」と発言。また監督は責任を取るのが仕事と考えており、責任感の無い自分には監督業は向かないと考えていたそうです。 さらに「自分はNo.1よりNo.2が向いている」という庵野監督。
No.1が監督業ならそのサポート役のほうが自分には合っていると考えていたというのです。
しかし当時脚本が難航していた『トップをねらえ』で監督を予定していた人が降板したため、急遽手を上げて監督を引き受けた庵野監督。
これは『ふしぎの海のナディア』も同様だったそうで、庵野監督の名を世に知らしめたこの二作品ともが、ひょっとしたら別な監督の作品になったかも知れなかったということに驚きました。
このあと『パトレイバー』の押井守監督の話題で笑いを誘いつつ、『トップをねらえ』の話しをかなりディープなところまで話されていたのですが、個人的には『ふしぎの海のナディア』の話しが面白かったです。
『ふしぎの海のナディア』はNHKから送られてくる脚本通りに作るよう言われたそうですがその脚本が本当につまらないものであったらしく、最初の頃はNHKをなだめながら面白いものに軌道修正していくのに苦労したそうです。
ここで庵野監督は自分のやりたいようにNHKを説得するため、NHKと同じ制作である東宝の担当者に根回しをおこなった上で交渉していたそうです。 相手の要求を単に突っぱねるだけではなく、根回しをしつつ相手に落としどころを提示するやり方に関心してしまいました。
ここまででトークイベントの予定時間一時間の内、9割方を使ってしまい残り時間10分でようやくエヴァの話題となりました。
幻の「サンライズ版エヴァ」
『ふしぎの海のナディア』終了後、精根尽き果てた庵野監督は大作に関わるような仕事をする意欲を失っていたそうです。
そんな時、現ガイナックス社長である山賀博之氏がプロデュース・原作・脚本をする『蒼きウル』の企画が立ち上がり、その監督を庵野監督に引き受けてくれという話しがあり、そこまでお膳立てされているのであればと、一旦はその話しを引き受けたそうです。
しかし色々な問題から『蒼きウル』の企画は頓挫し、この時に庵野監督は他人に頼ってお膳立てしてもらっては駄目だと思い、「誰にも頼ることなく一人ですべてをやる」決意をしたというのです。
そこで自身一人で企画したのが『エヴァンゲリオン』で、原作だけでなく予算書なども庵野監督がキングレコードのプロデューサー・大月俊倫氏から「ロボットモノの企画はないか?」と聞かれたときに(これは大月氏の社交辞令だったと思うと庵野監督)、エヴァの話しを持っていったということでした。
その後、製作スタジオとして当時決別していたガイナックスに逆プレゼンをした庵野監督。そこでOKが出たのでガイナックスでエヴァを作ることになったそうです。
これが無ければ庵野監督はエヴァの企画をサンライズに持って行くつもりだったらしく、しかしサンライズでは身動き取れなくなるだろうから直ぐにタツノコプロに切り替えるだろうと予想していました。
ただガイナックスだけでは心許ないというので、結局はタツノコプロの力も借りてエヴァンゲリオンの制作はスタートすることになりました。 と、ここまででトークショーの残り時間がほとんど無くなってしまい(残り時間5分ほどかな?)、「最初からエヴァの話しをしていれば」などとここまで来てから言い出す庵野監督。
時間が無くなったためか「宣伝ではありませんが」と前置きした上で、TVエヴァ当時の自身の事はエヴァ関連本・『スキゾ』『パラノ』に洗いざらい書かれていますと言う庵野監督でした。
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ちなみに上記本はインタビュー形式なのですが、これについて庵野監督は「インタビューで答えている内容だけでなく、インタビューしている側も自分が書いている」と発言。インタビューアーが言っていないことも言ったことにしてほとんどは自分が書いていると爆弾発言していました。
しかし旧エヴァについて庵野監督が話せるようなことは、すべて上記本で語られているともおっしゃってましたので、ファンなら一度は目を通したい本です。 ここから時間を延長しながら、ようやく上映作品である旧劇場版の話しとなります。
TV版リメイクと完全新作のエヴァ
庵野監督はTV版エヴァの25話と26話について、色々うまくいかなかったので劇場版でリメイクすることになったと言うのです。
そこで作られたのが97年に公開された『Air/まごころを、君に』でしたが、これ以外にもう一本完全新作を作るよう角川書店にお願いしていたという庵野監督。
旧劇場版には幻の完全新作があったことはそれなりに知られている話しだと思うのですが、今回その完全新作の設定が初めて庵野監督の口から語られました。
それによると完全新作はTV版エヴァの世界観を一度すべて捨ててリライトする内容で、劇場の2時間で完結する『新しいエヴァンゲリオン』だったそうです。 その設定とは以下のようなもの。
- 人類はほとんど滅びており、残った人類はATフィールドで守られている壁の中で暮らしている
- 壁には橋が1本だけ通っており、人類はそこからしか壁の外へ行けない
- ただし外には「使徒」と呼ばれる人類の脅威となる存在がいる
- この「使徒」は人間を食べる設定。TVではできないことをやりたかったとのこと
- 人間が喰われるという設定について庵野監督は、「人にとって最も怖いのを考えた結果」と話しています
- この「使徒」に対抗できるのは「エヴァンゲリオン」だけ
- エヴァに乗るにはエントリープラグなどではなく、エヴァの子宮にパイロットが取りこまれる必要がある
- この子宮に取りこまれた人にはタイムリミットがあり、それを過ぎるとエヴァに乗り込んだ人自身が新たな「使徒」になってしまう
こうした設定だった新作のエヴァでしたが、庵野監督はこの新作の監督を、自身ではなく鶴巻和哉氏に依頼したとのこと。
しかし鶴巻氏は「エヴァは庵野さんの作品」と断ったらしく、これにより完全新作のエヴァンゲリオンは幻となってしまったようです。
ちなみに上記設定は、マンガ『進撃の巨人』にそっくりで、特に壁の中でしか人類は生きていけない・壁の外には人類を食べる巨人がいる・どうやら巨人は元は人間らしい、という設定がほとんど同じです。
これについて庵野監督は、『進撃の巨人』の名前を挙げて「非常に驚いた」と明かしていました。